インタビュー:ボストン日本協会の高柳直子さん
日本とアメリカ·ボストンとの文化、芸術、人的交流などに120年あまり携わってきた歴史を持つボストン日本協会(Japan Society of Boston:JSB)。ボストン日本祭りにもご協力いただいています。ボストンの地元コミュティと日本との懸け橋として、同協会がどのように活動し、地域に根差してきたのか。同協会の高柳直子ディレクターにお話を伺ってみました。
ボストン日本協会の主な活動内容を教えてください:
講演、セミナー、ワークショップなどの独自のイベントを通して、日本や日本文化を英語で紹介しています。日本をテーマとした展覧会やオペラ、日本映画が地元で開催される際には、美術館や映画館とコラボをして、ウェブサイトやニュースレターを通じて、皆様に日本関連のイベントをお知らせしています。会員とイベント参加者の大多数は日本人以外の方となっています。
イベントとしては、対面イベントとオンラインのイベントを提供しており、大半は無料となっています。一般の方にご参加いただけるオンラインのイベントとしては、毎月のものと、単発のものがあります。毎月のイベントには、英語と日本語の交流会(無料)や、『おうちごはん』という料理クラス(有料)などがあります。単発のイベントとして昨年は、日本建築をご紹介するシリーズを3回開催しました。今年はこれまでのところ、日本のウイスキーのイベントや国際関係セミナーなどを開催しました。
会員限定のオンライン·イベントとしては、Book クラブ、古典文学を語り合う会、映画クラブなどがあり、世界中のどの場所からでもご参加いただけます。
会員限定の対面イベントとしては、通常では経験できないボストン美術館やハーバード美術館の学芸員によるプライベートツアーや、ハーバード大樹木園のツアー、こども博物館の京の町家での紙芝居、ボストン周辺の日本の居酒屋での交流会などが挙げられます。日本や日本文化を通してつながりたい会員さんには、居心地がいいコミュニティになっていると大好評をいただいています。
アメリカには日本協会がたくさんありますが、ボストン日本協会の特徴は何でしょうか?
全米に、日米協会もしくは日本協会という団体が38あり、それぞれが完全に独立した団体となっております。横のつながりとしては、全米日米協会連合会(NAJAS :National Association of Japan -America Societies)の会員として、年一回の総会で交流する機会があり、日米協会同士でコラボする機会もあります。
ボストン日本協会の特徴としては、日米協会の中でも歴史が古い点と、ボストンが大学街であるため、高学歴な方が集まっている土地柄から、「付け焼刃の知識では会員さんは満足しない」点が挙げられます。イベントにご参加くださる方は、日本や日本文化への造詣が深く、好奇心も旺盛でいらっしゃるので、自分たちであらかじめしっかり調べたり関連書籍を読み込んだりしてからセミナーやワークショップにいらっしゃることが多いです。「本物」を英語でお伝えすることにこだわり、講師にお迎えする方は日米の専門家にお願いしています。
弊会で開催しているBETWEEN THE LINES: A Monthly Discussion on Medieval Japanese Women's Literatureは、「源氏物語」、「枕草子」、「とはずがたり」などを英語で読んで議論する会員限定のイベントです。日本の古典文学に詳しいスタッフのChris Ellarsが担当しており、日本文学について英語で語り合い、世界中の源氏物語が好きな方々とつながることができる貴重な機会として支持され、日本やカナダなど世界各地から会員が参加してくださっています。
日本に関して深い知識を持った方々が会員さんに多い印象を受けたのですが、ほかにはどのような層が日本やボストン日本協会の活動に興味をもたれていますか?
伝統芸能や文化だけではありません。アニメが入口となって日本文化が好きになったり興味を持たれたケースは数え切れません。漫画『ゴールデンカムイ』を読んでアイヌ文化に興味を持たれた後、Bookクラブにご参加くださる方や、ゴジラ好きから雅楽にのめりこんでいる若者も弊会に集まってきます。
弊会では、パンデミックの際に、Anime Bostonさんとコラボしたことがありますが、昨年もお邪魔させていただき、素晴らしいボランティア組織力に感銘を受けました。今年も、米国北東部最大のアニメコンベンションであるAnime Bostonに、弊会もコミュニティの一員として参加します。
昨年から特に対面イベントでの地元機関とのコラボに力を入れており、和太鼓鼓童の公演の際にはCelebrity Seriesとワークショップ、映画『ある男』(平野啓一郎)上映時にはBelmont World Film、オペラ蝶々夫人公演に関連したイベントではBoston Lyric Opera、また前述のように、MFAやハーバード美術館、Coolidge Corner Theatre、Boston Japan Film Festival、ボストン東スクール、Planet Bostonなどにもお世話になっております。
そのほか、昨年からビジネス分野での交流も強化しようとしており、企業を訪問させていただいたり、名刺交換会を開催したり、ビジネスランチ会を開催しております。弊会の特色は美術館、オペラ、映画館などと交流があることです。スタートアップから製薬会社、商社、金融関係といったビジネス分野で活躍されている方々が参加された名刺交換会では、「ビジネスと文化の両方が出会える場として楽しめた」とご好評をいただきました。
弊会は日本人の間ではあまり知名度がありませんが、イベントにご参加いただいた日本人や日本人会員の方からは、「ボストン日本協会は面白い。日本が大好きなアメリカ人と出会える」とのご意見を頂戴しております。名刺交換会は終わった直後から「第二回目はいつですか?」との要望も多くいただきました。第一回目は日本航空さんがスポンサーになってくださり、お世話になっております。
地元コミュニティの学生さんとの関係強化、周知活動にも力をいれておられるようですが?
学生会員さんは会費が一般会員さんの4分の1となっており、入会時にプレゼントしております書籍や事務処理を考慮に入れますと、弊会にとっては、収入源にはなりませんが、将来への投資だと思って重視しております。弊会で日本文化と触れ、社会人になってからも日本文化に興味を持ち続け、日米間の国際交流に携わっていく方が将来的にバトンをつないでいただけたら、これ以上の喜びはありません。
ボストン日本協会はJETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Programme:外国青年を日本に招致して地方自治体等で語学指導等に任用し、外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図る事業)を支援しています。日本で働いてみたいアメリカ人青年には大人気のプログラムです。
昨秋は、JET経験者とTOMODACHI Initiative経験者、さらに日本に留学中の学生によるパネルディスカッションを、USJETAAとTOMODACHI Initiativeとのコラボで開催しました。日本で勉強してみたい、または働いてみたい参加者には、経験者の生の声が聞けるまたとない機会となりました。このほか、JSB Meets JET AlumというブログをUSJETAAとのコラボで掲載しています。弊会ウェブサイトまたはニュースレターで、JET経験者の日本での経験についてぜひ読んでいただければと思います。
弊会では、インターンやボランティアも随時募集しています。ニュースレターなどの執筆やデザインにはインターンやボランティアが大きく貢献しております。ブログのいくつかはボランティアが担当しており、現代日本文学のBookクラブと日本映画について語るFilmクラブの司会は、知識豊富な会員やボランティアが担当してくださるなど、さまざまなバックグラウンドの方々が参加し、共に会を運営する一つのコミュニティとなっています。
弊会は、フルタイムがProgram ManagerのJoanne Haと私の二人のみと少ない分、トップダウンではなく、チームで決める組織を心がけています。規模は小さいですが、その分決定は早く、プログラムが実現するまでの時間は大きな組織よりも短いのが利点です。会員は、中学生から100歳以上と年齢層も幅広く、「源氏物語からアニメまでOK!」という守備範囲を反映し、Bookクラブや居酒屋での交流会などでは世代を超えて「日本」を通じて人とつながることができるところが魅力だと思っております。
最後に、ボストン日本祭りへの参加者、そしてそれをささえるボランティア実行委員にメッセージをお願いします。
たくさんの日米双方のコミュニティから集まったボランティアに支えられている日本祭りです。ボランティアの皆様の並々ならぬ努力と熱意には頭が下がります。ボストン日本協会もできる範囲でお手伝いさせていただきたいと思っております。皆様、日本祭りへ足を運んで是非こころゆくまで楽しんでください。